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Interview 03 13年の専業主婦生活から一転。ワクワクするイチゴづくりを仕事に。

株式会社PunksFarmer 早坂 亜由美さん


ミガキイチゴアカデミー(以下、イチゴアカデミー)5期生で宮城県仙台市で営農を開始された≪株式会社PunksFarmer 早坂亜由美さん≫。
もともと農家の長女として生まれた早坂さんは高校を卒業後、建設会社の事務員として働き、結婚を機に約13年間の専業主婦生活を送られていました。
そんな早坂さんが2020年にミガキイチゴアカデミーに入校し、現在は会社の代表となり、イチゴ農家として営農をスタートされました。
早坂さんの就農前から現在までのお話に迫ります。

profile 【プロフィール】

2020年4月
イチゴアカデミー5期生として入校
2021年8月3日
イチゴアカデミー在校中に、株式会社PunksFarmerを設立
2022年6月
イチゴアカデミー卒業
2022年9月
営農開始
「株式会社PunksFarmer」の名前の由来を教えてください。
もともとは夫婦や家族みんながPunkRock音楽を好きというのもありますが、言葉の意味もしっかり定義しています。「Punks」は、「昨日より今日、今日より明日。日々自己ベストを追求する。壊しながら自己ベストを更新していこう」という意味です。「Farmer」はあえて”s“をつけず単数形にしているのですが、「私たちに今後関ってくださる方たち一人一人が志を持つ、自立した”農業家”であってほしい」という想いを込めています。なので「PunksFarmer」は「自己ベストを追求する、自立した農業家」という意味になります。
とてもかっこいいお名前ですね!早坂さんはどういったきっかけでミガキイチゴ・ミガキイチゴアカデミーをご存じになったのですか?
ミガキイチゴに出会ったのは今から6年ほど前です。当時小学校3年生ぐらいの息子が買い物中に「お母さんどうしよう…落としちゃった」と落としたイチゴを持ってきたんです。そのイチゴが5粒で1,000円ぐらいするミガキイチゴでした。高いイチゴだな…と仕方がなく買って帰って食べたら、それがすんごい美味しくて!(笑)「イチゴってこんなにジューシーでおいしいんだ!」と私の中でとても衝撃だったんです。それが一番最初にミガキイチゴに出会ったきっかけでした。
その後、しばらくして、またミガキイチゴのダイヤモンドマークと出会うんです。それが主人が高校の同窓会へ出席したときに、もらってきた同窓会パンフレットでした。そこには高校の卒業生たちが紹介されていたのですが、ミガキイチゴも載っていたんです。GRA(ミガキイチゴアカデミーの運営会社)代表の岩佐さんと主人が偶然同じ高校出身で、「あ、主人の先輩なんだ」と知りました。
その後、「一体あのイチゴはどうやって作っているんだろう」と気になって調べたら、宮城県山元町で生産していると分かり、すぐに電話で問い合わせをして現地へ訪問しました。
訪問してイチゴハウスに足を踏み入れた瞬間に、目に飛び込む鮮やかな緑、イチゴハウスの香り、晴れて清々しい空気に、自分の五感の中で作動するセンサーがビビッと反応したんですよね。「私の残りの人生、こういうところで仕事をしたい!農業をやっていきたい。」という気持ちが芽生えました。

イチゴアカデミー入学を決めてから足掛け3年経った現在、早坂さんのハウスではイチゴの良い香りがたちこめていた

直観で感じるものがあったんですね。もともとご家族で農業をされていたとお伺いしましたが、そういった点も就農を希望した背景にあるんでしょうか?
もともと農家の長女に生まれたので、農作業自体はとても身近でした。毎年、春の田植え、秋の稲刈りは親戚が集まる恒例行事で、すごい楽しくて好きな時間でした。小さい頃は、作物を育てたりするのも好きで、勝手に種を買ってきて畑に撒いたり、おじいちゃんおばあちゃんについて行って一緒に作業をしたりしていましたね。高校を卒業した後は建設会社に就職し、結婚を機に退職。その後は13年ほど専業主婦をしていました。ですので、もともと農業自体になじみはありましたが、農業自体に進もう、という気持ちはありませんでしたね。
ではミガキイチゴとの出会いが、本当に大きかったんですね。最初の直観で、イチゴアカデミーの入校は決意したのですか?
実は、最初のハウス見学には主人も一緒に行ったんです。その時、主人も同じように「今後こういうことを一緒にしてきたいよね」という気持ちになってくれたみたいで。
ただ最初にビビッと来た直観は、一過性の盛り上がりではないか?と、自分たちでも半信半疑な気持ちもありました。ですので、GRAさんにご相談して何度か通わせてもらい、お手入れや収穫などのいろんな作業に入れもらったんです。パートさんたちともお話をして、どんな人たちが働いているんだろうと。その結果、何度通っても「楽しい」という気持ちで、やりたい気持ちが薄らぐことはありませんでした。「もうこれはやっぱりやろう」と夫婦で決め、そこから改めて新規就農説明会にも参加し、イチゴアカデミーの内容についても再度確認した上で、入校の申し込みをしました。

ご主人の早坂洋平さん。現在も合間を縫って、作業を手伝っている

ご主人以外のご家族にはどのタイミングで共有されたのですか?
「私たちはこういうことをやりたいです。」と打ち明けるために、元旦に夫婦それぞれの両親に話をしました。最初は戸惑っていましたが「やめなさい」とは一度も言われず、「応援するから頑張りなさい」とみんなから言ってもらいました。その後、両親たちを安心させるためにも、新規就農説明会には家族みんなを連れていきました(笑)
ご家族にもしっかり理解をもらってから受講されたのですね。

実際、イチゴアカデミーを受講してみていかがでしたか?
栽培座学ではイチゴの植物生理から、成長過程での変化、また病気や病害虫などの講義もあり、テキストを使って体系的に学べたのはとても良かったですね。今でもときどき、テキストを見直して勉強しています。
実際の栽培では自分の担当エリアを決めて栽培管理しますし、誰かの口に入る作物を栽培することに対する責任感なども学べたかなと思います。
建設座学の講座内では、ちょうどハウス建設途中の先輩ファーマーさんがいらっしゃったので、実際に現場作業に入らせてもらう機会もありました。「ハウス建設ってこういうことをしていくんだ」と学べる時間でしたね。
マーケティングや経営に関する座学もあったので、そういった点も色々学べたのですごくよかったです。
受講期間は2年でしたが、1年目、2年目と違いはありましたか?
1年目は何もかもが初めてだったので、本当に毎日勉強、勉強でした。家に帰ってから、その日の復習をしたり、翌日実施する作業の予習をしたりしていました。2年目になると体も覚えているのか講師に色々聞かなくてもわかるようになっていて、自分自身の成長を実感しました。選果も1年目はかなり時間もかかって大変でしたけど、2年目はスピードアップできたかなと思います。2年目を経ることで、自分の力になっていることを確かめられましたし、「これなら自分でもやっていけそう!」と自信にもつながりましたね。

イチゴアカデミー5期生終了式の写真(左:GRA代表岩佐、右:早坂亜由美さん)

就農された土地はどのように探されましたか?
この土地は、代々うちの先祖がお米を作ってきた田んぼでした。実は震災で米作りの機械がやられてしまい、自分たちで作れなくなってしまったので、他の方に米作りをお願いすることになっていました。自分の中ではそれがすごくもどかしくて、先祖が持っていた土地で、何か収益性の高い事業をやりたいなという気持ちがありました。そこで、元旦に父に「この土地を使わせていただきたい」と相談して、家族や親戚からの了承をもらい、この土地を使えることになったんです。
ちなみに、ここはもともと田んぼだったので、今回ハウスを建設するにあたり、盛り土をする必要があり他の方たちよりは費用がかかっていると思います。
土地はご家族や親戚の皆さんの理解を得て、決められたんですね。就農に向けての具体的な準備はいつ頃からスタートされましたか?
ハウス建設は受講2年目から、建設座学の講師に相談を始めていました。自分自身でも先輩のハウスを色々見る中で「こういうレイアウトにしたい」などのイメージをラフ画で描いて講師に相談をし、「あの立地だったら、ここをこういう風にした方が良い。」などアドバイスをもらっていました。他にも近隣で水道の設備がどうなっているか図面をとったり色々することはありましたね。山元町と仙台市が離れていたこともあり、余裕をもって動いていました。イメージをしっかりと持ち早めに動くことで、必要な資金も見えてきましたね。
資金調達についてはどのようにされましたか?
資金調達が一番大変だった!この事業をスタートするにあたって、一番ハードルが高かったです。政策金融公庫さんや銀行さんにも何度も足を運んでお話しましたね。事業計画は大事だけど数字だけ並べてもなかなか人って動いてくれないんです。その人が本気かどうか。どういうビジョンや想いをもって、事業を立ち上げてやっていくのか、“本気度”や“想い”を見ているなと何度も足を運んで気づきました。そのためにはビジョンってすごい大事だなと感じましたね。もともと考えていなかったわけではないのですが、相手が「こいつら本気だな」と受け止めてくれ、その人の心を深く動かせるためには、ビジョンを相手に真剣に伝えないといけません。心を強く持って「どうしても自分はこれをやりたいんです!」と真剣に伝えられるぐらい、ビジョンは何度も深く考えました。
そんなPunksFarmerさんのビジョンを教えてください。
PunksFarmerのビジョンは、「誰もがココロ躍るコトを仕事にできる社会の実現」です。いま、自分自身もワクワクできることを仕事にしています。私は農業・イチゴでしたが、人それぞれのワクワクすることが仕事にできて、みんながハッピーな気持ちで仕事をできる社会を目指したいなと思っているんですね。
「主婦からでも決意をもって本気でやれば、農業でもしっかりと収益をあげて生活を成り立たせることができる!」と私自身がロールモデルになることが、若い子や女性の方たちが一歩踏み出すきっかけになればいいなと思っています。1mmでも、少しでもいいので、何か世界を変えられるような人が増えると嬉しいです。
私も一歩踏み出してチャレンジしたこの3年間で、会う人や生きる世界が変わりました。ずっと家にいたときには想像もできないぐらい変わり、出会えなかった人たちに出会えて勉強させていただいて。
動かないと世界は何も変わらないじゃないですか。何でもいいと思うんです。少しでもみんなが動くきっかけになれればいいなと思っています。
本当に素敵な、熱いビジョンですね。早坂さんがそのビジョンを周りに伝えるからこそ、たくさんの方が応援してくださっていますよね。
かかわった方はGRAの皆さん、金融機関の方、行政の方、商工会の方、大学の農学部の先生、近隣のイチゴ農家先輩もいらっしゃいますし、あとは地域の方、農業委員会の方…。本当にたくさんの方とかかわり、応援していただきましたね。
行政関係の方は研修が始まってすぐに相談をし始めたので、初期からお世話になりました。地域では、家族が代々この地で育ってきて繋がりがあったので、「ここで娘がこういうことをします」と家族づてでお声がけさせていただいたり。あとは主人が卒業した高校の先輩で飲食関係をされている方ともお話をさせていただきましたね。
自分1人では何にもできないので、いろんな方に応援して支えてもらって自分の夢が一歩ずつ進んできています。いろんな人と関わって、いろんな考え方やアドバイスをいただきながらやっていくのが一番の近道じゃないですかね。一番大切なのは“人”だと思います。

PunksFarmerさんのイチゴハウス竣工式には、総勢70名ほどの方が参加された

早坂さんは融資以外にもいろんな補助金を活用されていたと思うのですが、どのような補助金を活用されていましたか?
メインで活用している補助金は、「みやぎの企業的園芸等整備モデル事業」で、最大2500万円交付されるものです。これは応募できるなら是非した方がいいと思います。ただ補助金の金額が大きい場合はプレゼンがあります。プレゼンが恥ずかしい方もいらっしゃるかもしれませんが、たった5分や10分の間、自分の想いをプレゼンで伝えることで、補助金をもらえる可能性があるのであれば、絶対に応募した方がいいと思います。
あとは宮城県の産業振興機構でやっている「スタートアップ加速化補助金」というのもいただいていて、幅広いメニューで活用させていただけるのでおすすめです。他にも商工会議所で扱っている「小規模事業者持続化補助金」などは広告費や直売所の設備費などにも使わせてもらっています。
産業振興機構や県、行政に相談すると「こういうのもありますよ」と紹介してくれるので、行政関係の方に早めに相談をして、しっかりと情報を得ることが大切だと思います。
※補助金の内容は2022年現在のものです。補助金の内容は各種交付機関に直接ご確認ください。
現在、ご家族といっしょに営農されていると思いますが、いかがですか?
現在会社で雇用しているのは私の母になります。長年生きてきて母と一緒に仕事をすることってなかったんですよね。私も家族を雇うなんて初めてですし、母も娘に雇われるなんて初めてなので、お互いにすり合わせながらやっています。
お休みの日になると父や主人たちも手伝いにきてくれ、そこに子供たちも休みの日に遊びに来たりします。家族が同じ時間、同じ作業をしていて時間を共有するのって大切だなと感じています。家族の中でも仕事を一緒にすることで、新たな一面を発見できたり、結構面白いですね(笑)
家族で一緒にいる時間も増えた分、子供の成長を見る時間も増えたし、喋る回数も増え、私は一緒にやっててすごく楽しいですし、やってよかったと思っています。

お母さんとおそろいのPunksFarmer Tシャツ

早坂さんが幼少期に体験した家族での農作業の想い出が、作物は違えどまた戻ってきたようですね。

専業主婦からガラッと生活も変わり、大変ではありませんか?
人から言われたことではなく「自分がどうしてもやりたい!」と思って、勉強しに通って、それを家族みんながサポートしてくれていたので、「大変だな」と思ったことは一度もないんです。むしろ専業主婦で毎日同じルーティンで過ごすよりも、やることもあるし自分でやりたいと思っているので、張り合いが出て毎日がすごく楽しいです!
今後はどのようなことに力をいれていきたいですか?
うちの直売所はそんなに大きくはないですが、特別なものとしてイチゴを買いに来ると場所というより、普段使いでいろんな人がふらりと買いに来て「最近どう?」と交流ができる場所にしていきたいなと思っています。
あとは、いつまでも自分たちのスタイルを貫いて、100人中99人の方を向くよりも、ぶっ刺さる1人に向けて尖がってやっていきたいです。それには自分のワクワクすることをずっとやり続けることが大切だと思っています。
また、私たちだけでなくミガキイチゴもワクワクするよねと思ってもらいたいんです。ミガキイチゴがもっともっといいものであるようにしていきたいです。
最後に新規就農を検討している方に一言メッセージをお願いします!
私はイチゴアカデミー受講中から「自分の育てているこの作物は、どういう人がどういうシチュエーションで、どういう想いでこれを買ってくれるんだろう」と、栽培や選果をしながらずっと考えていました。イチゴってハレの日やお祝いごとに選んでいただく機会も多いと思いますし、もらったときに「わあっ!」って皆さんが喜んでくれるんです。ただ作って出荷して終わりではなく、受け取って食べていただくところまで責任をもって生産をするべきだと考えています。
農業はそんなに簡単ではないし、やったからすぐに成功するわけでもありません。「ちょっと農業楽しそうだな」と思って、すぐに仕事を辞めて…というのでは難しくて、やはり“覚悟”が必要だと思います。
その分、やったらやった分だけ喜びが目に見えてわかるし、命の源となる食物を栽培する産業という点でも責任は大きいですが、その分とてもやりがいがあると感じています。「農業は楽しいですよ!」ということをお伝えしたいです。

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